DNA

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その日の午後、突然に熊木田は女を連れてきた。 小さな寺院ほどもある玄関吹き抜けを見上げる純朴そうな女を、夫は紹介する。 「関連会社にバイトに来ている浅木エイミさん。大学生だ。彼女に俺の子供を産んでもらう。どうだ。若いころの小百合にそっくりだろう。血液型も同じA型だ」 自分と似た容姿で同じ血液型の女を選んだことが夫の思いやりのつもりなのだ。それが何の慰めになるだろう。むしろ不愉快だった。 「ごめんなさい」 小百合は思わず謝ってしまった。それが、夫に対する謝罪ではなく、女に向かって言ったのは確かだ。 ‘夫の言うことは間違いなのだ。帰ってくれ’と謝ったのか、‘私の代わりにお腹を痛めてもらうのが有難い’と礼を言ったのか、‘自分のような女がここにいて申訳ない’と謝っているのか、小百合自身にもよく分からない。全ての意味である可能性もあった。 「こちらこそ。ごめんなさい」 エイミが同じように‘ごめんなさい’と言ったので、小百合は次の言葉を見失った。目の前の若い娘は、何を謝罪したのだろう。 他人の夫と寝ることか、突然押しかけたことか、それとも、自分のDNAを熊木田家に持ち込むことなのか……。
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