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「上がりなさい。時間がない」
熊木田はエイミをせかすと2階に上がり寝室に入った。
小百合は2人が大きな吹き抜けにある階段を上る姿を見送った後、リビングに戻って本を開いた。が、文字は見えなかった。テレビをつけたが、音は聞こえなかった。
室内を動物園の獣のようにぐるぐると歩き回った挙句に階段を上った。
寝室のドアの前に立つと「アゥン……」とか「アッアッ……」とかいった短い喘ぎ声だけが聞こえた。
小百合は奥歯を痛いほど咬んでいた。
嫉妬ではなかった。怒りと屈辱……、そして、哀しみ。そんなものだ。
ドアの前には30分も立っていただろうか。突然、声が聞こえなくなり、終わったのだ、と思った。立ち聞きをしていたことに恥ずかしさを覚え、急いで階下に降りた。
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