第一章  捜査本部

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 午後十時には、ルームサービスの夕食が下げられた。廊下には交代した警官が一名立っているだけ。廊下は何時もの静けさを取り戻していた。  やがて真梨子がドアから出た。つい先ほど、フロントから面会を求めて訪問者が来ていると連絡が入っている。  捜査一課長の指示通りに、部屋から出てドアを閉める。 「フロントに来訪者がある様子なので、確認に行ってきます。三十分程で戻りますから警護をよろしくお願いします」  そのままエレベーターで下に降りて行った。  それを待っていた様に、宇津木と二名の刑事が階段から姿を現す。  辺りに目を配りながら部屋に近づくと、ドアの外の警官に目配せをした。  警官の動きが不審なものに変わる。彼が廊下の左側を警戒し、刑事の一人が右側を警戒する。  宇津木がドアをノックした。 「二宮検事、夕方にお伺いした管理官の宇津木です。犯人から新しい動画が届きましたのでお知らせに来ました」、一呼吸置いて続ける。 「入室させていただけませんか」  ドアのロックが外されて開いた瞬間に、三人の男が室内に乱入した。室内で女性検事に扮した女性刑事を拘束したまでは、計画通りだった。  だが、其処までだった。  室内のクローゼットと浴室に待機して居た捜査員が躍り出て乱闘になり、三人が制圧されるまでにそれほどの時間は掛からなかった。  外の警官も隣室から飛び出して来た捜査員に確保され、そのまま数名の刑事が室内に入って行く。  宇津木の自供で、奥多摩の貸別荘に監禁されていた十歳の少年は無事に助け出された。衰弱が激しく脱水症状を起こしていたが、生きいた。そのまま病院に収容されたのである。  その連絡に、捜査本部には安堵のどよめきが広がった。  管理官に罠を仕掛けた逮捕劇は幕引きになり、やっと報道規制を解かれたマスコミが騒ぎ立てている。  管理官の宇津木は、意外な程、あっさりと素直に供述を行なった。  高畠検事とは、もう十年以上前からの関係だった。 「一生に一度の、本気の恋だった」、と薄い笑みを浮かべた。 「噂を打ち消す為に結婚するが、愛しているのは僕だけだと誓ったのに!あの女を抱くなんて許せなかった」、と冷たい声で語った。  殺人以外の犯行は、高畠陽子の殺害事件の目くらましを狙ったもの。「動画に始まる地検への報復」、というセンセーショナルな事件を偽装する積りだったらしい。  
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