第二章  事件の後で

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 事件の終結から二か月が過ぎても。高彬は環の行方を見失い、狼狽している。TD警備保障のガードシステムは、今回の事件が報道されるなり大変な反響を呼んで。  -仕事の依頼が殺到しているー。 当然のことながら。環にかかりっきりだった間の仕事が溜まっていた高彬は、経営者として煩雑な社長業務に忙殺される日々を送っていた。  やっと仕事の目途が付いて、環と連絡を取ろうとした時には。彼女は地検を去った後で、行方が分からなくなっていたのである。  必死で探した。  社長だからと言って、個人的な勝手な事情で会社の調査部を使う事は許されない。  高彬は仕方なく彼女の行方を自分で探したが、現場の調査には不慣れな彼にはまるで手掛かりがつかめなかった。  文子にも問い合わせたが、知らないと言う。父にも聞いてみたが、知らないと言った。  平瀬は、今回の事件のせいで人手不足に陥った地検の仕事に忙殺されており、取り合ってもくれない。  環の行方が分からなく為って二ヵ月が過ぎ、高彬は憔悴していた。  そんな高彬を見かねて、TD警備保障の社長室に早見が真梨子を引き摺って入って来たのは、五日前の事だ。 「おい、真梨子。社長に教えても良い頃だと思わないか。何で環さんが逃げているのか、知っている事を社長に話せよ」  真梨子が僕の方を見て、迷った顔をしている。 「軽井沢の別荘で書斎に呼んだ時から、何かを知ってるらしいとは思っていたよ。話してくれ」  環が、真梨子に言わせなかったあの話しだ。可成り躊躇ってから、また早見に促されて・・真梨子が話し始めた。 「環さんは今、軽井沢の別荘で社長のご両親とご一緒です。悪阻が酷いので殆ど邸から出られない、と言って居られました」 「環と話したのか」  僕の声がきつかったらしく、真梨子が身を竦ませている。 「ずっと連絡を取り合っています」、申し訳無さそうに、真梨子が答えた。 「環は何時から妊娠した事に気付いていたんだ。まさか囮作戦を遣る前からじゃ無いだろうな」  きっとあの時にはもう気付いていたのだと確信した。怒りが湧いてくる。 「そのまさかです」  真梨子が消え入りそうな声で答えると、僕の様子を上目遣いに伺った。
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