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まだ梅雨の開けていない外は、また小雨が降りだしていた。
それを庇の向こうに見ながら、僕は、彼女の前に「はい」と
ある物を差し出す。
「花火?」
去年の同じ月、僕たちが付き合うきっかけになった花火を記念して
今日のハイライトにしたいと用意しておいた、線香花火。
「本当は、いっぱいしたかったんだけど、夜中だから一本だけ」
囁くように言って二人でしゃがみ込み、マッチを擦る。
そして、一緒に炎に花火を近づけて間もなく、
チカチカと小さな花火が、僕たちの前に散りだした。
「きれい……」
彼女の囁き声が、細く呟く。
その瞬く光を見詰める彼女の横顔は、
暗い中でも、女神のように優しく、美しい。
だから、その柔らかな頬に、僕は小さく唇を寄せた。
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