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春が来た頃に、一輝が突然驚きの報告をした。
それは久々に平日に休みが取れたからと誘われたランチのお店で、よりにもよって素敵なテラス席での発表だった。
「仕事辞めた」
一輝の一言で固まる私。
仕事を辞めた?事後報告?
「辞めたの?」
確認のために聞いてみた。
「辞めた」
「何で?理由は?」
「そんなの言えばキリねぇよ」
今年30歳になろうとする男の発言とは思えない。
眩暈がして、持っていたフォークを置き、椅子に身を委ねた。
「一輝、もう仕事辞めたの何回目?」
「おかんみたいなこと言うのな。心配いらねぇよ、次すること決まってるし」
私の食欲は一気になくなったのに、一輝はしっかり食べながら話を続ける。
「デイトレーダーになることにした」
自分の眉間にシワが出来るのがわかった。
「おまえ、顔こえーよ」
「怖くもなるわよ。一輝、もう29歳なのよ。いつになったら落ち着くの?」
「はぁ?」
「いい加減地に足をつけてよ。不安で着いていけない」
私の一言で一輝は怒った顔をしたが、すぐにヘラッと笑った。
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