極限の境地

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極限の境地

うーーーーん!で、でなーーーーーい! 「先生まだですか!!?」 担当の小泉愛華(こいずみまなか)が強い口調で訊ねてくる。いつもは締切ギリギリでも優しい口調なのに…。イライラがはみでてるよ。それぐらい切羽詰ってるってことか。 「もう少し、もう少し待ってくれ」 「もう少し、もう少しって。さすがにもう印刷が間に合わなくなっちゃいます!」 「あと1コマ。さっき思いついたオチが弱かったから、もう少しだけ考えさせてくれ」 食い下がる。というか本当にもう少しでいいオチが出そうなのだ。 4コマ漫画家としてデビューして、もう20年が経とうとしている。はじめは楽しかったが、20年も経つとさすがにネタが出てこない。毎日絞り出すのに必死だ。 たかが4コマ。されど4コマ…。 もっと売れてインタビューとかされたら、絶対言うと決めているセリフ。 だって、4コマ目でオチが必要なんだよ。20年間も続けていると、何本のオチを考えたことか。千本はいってるな。何千本だろうな。えっとー、ひと月50本ぐらいだから… 小泉愛華の視線を感じる。じっと睨んでいる。 別の事を考えてることがバレたのかな。彼女のこんな表情はじめてみたよ。 「印刷所に連絡してみます。あと1時間が限界だと思います」 小泉愛華は携帯を取り出し、電話をかけるため席をはずした。
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