匂い、とおくちかく。

修学旅行の夜のこと。

しばらくしてユウキが口を開いた。

「で、ツグミは好きな人いるの？」

「えっ、ちょ、いきなりすぎません！？」

「いや、前置き長くてもめんどくさいだけかなーと思って」

あまりにもあっけらかんと言うもんだから拍子抜けしてしまった。

「…うーん、こういう場ではそういう話した方がいいんだと思うんだけど……いないんだよねぇ…」

「ほんとにいないの？気になってる人とかは？」

「気になってる人か…。好きなのかは分からないけど、こう、心に引っ掛かる人はいるっていうかなんて言うか…」

「誰！？」

「えー、言わないよー」

言えるわけないじゃん。

まだ自分でだって判断がついてないんだから。

いや、本当はついているのかもしれないけど認められないっていうか、認めていいのか分からないって言うか。

とりあえず、慌てて話題をそらすことにする。

「それよりさ、ユウキのとこはまだ続いてる？」

「あー、うん。一応、ね」

「すごいよねぇ、ユウキは。中学入ってから彼氏いなかったことほとんどないでしょ？」

「まあね。でも、とっかえひっかえって感じだからなんか落ち着かないよ」

ユウキの明るい表情に一瞬影が差した気がした。