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安藤吾郎には、ここ最近気になる男がいた。 その男と安藤は高校3年生の春に出会ったから、決して腐れ縁ではない。 いや腐れ縁どころか、クラス、学年さえも違うのに、昼休みになると男はフラリと安藤の前に現れ、気がつけば仲睦まじく学食で向かい合っていたり、放課後はお約束のようにほぼ毎日顔を合わせ、共に時間を過ごしている。 安藤が男の動向を気にするようになったのは、こうした時間を過ごすようになってから、数ヶ月を経てからだ。 例えば、窓際の席からグランドを眺めるていると、どこかのクラスがサッカーに勤しんでいる。 その中に、あの男がいるのではないかと、つい目が離せなくなる。 そしていないことがわかると、では奴は今頃何をやっているのだろうかと、頭の中にあの男の面影をチラチラと蘇らせる。 その度に少しばかり胸がチクチクと痛むおまけ付きで。 恋愛に関してイマドキの小学生よりも疎い安藤ではあるが、この痛みの正体が、決して心臓疾患ではないことぐらいは想像がつく。 動揺し、保健室のドアを叩くような真似はしない。 その代わり、男が現れるであろう『ミステリー研究会』という何ともベタな名前のプレートが掛かっている部屋の扉を開ける。 『ミステリー研究会』略してミステリ研。 当初安藤は、ミステリー研究会の略は『ミス研』であるだろうと主張した。 対して男は、眉間にしわを寄せ、ゆるく頭を横に振る。 その、さもわかってないな。的な仕草にイラっとした安藤は、自分は先輩なのだ、後輩とは、先輩の下僕であるものだろう、などと暴言を吐いた。 しかし、同じフロアに『ミスター研究会』などという何とも不可思議な研究会が活動をしており、これではまるで我々は女の子の研究『ミス』を研究しているのでは、などと噂されかねない、と男は主張した。 ならばと、柔軟な意見を交わし合い、考察に考察を重ねた結果『ミステリ研』で良かろうと意見が一致したのである。
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