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「緑青、」
月白が袖を引く。その目には優しさのようなものがあった。あるいは憐憫。
「どうしてだ?」
痛いほど髪を握りしめた。
「どうしてだ?兄さんは、僕の目の前で死んだんだ。事故なんかじゃない。あれは自殺だ」
二人でエアプレーンに乗っていたときのことだった。兄は僕の目の前で真っ逆さまに落ちていったのだ。
「天鵞絨、君、今さっき鳥だなんて言ってくれたよな。そうだよ、鳥だよ。鳥はいつか落ちるんだ。みんな死んだだろ。みんな死ぬんだよ」
僕らの星には鳥はいない。地球に住んでた頃は青色の空を縦横無尽に飛び回る鳥がたくさんいたという。もう光源である太陽もないので一日中暗いこの星たちには連れてこれなかった。
「天鵞絨」
「そうだな、」
見上げた天鵞絨は斜に構えて笑っていた。色素の薄い唇が笑う。花のようだと思った。花びらのよう。たん、とその長い指が僕の額を叩く。じゃらり。その手のひらの中からマジックのように細長い円柱が出てくる。
「常磐(トキワ)から。やはり君にあげよう」
「兄さんから、」
手のひらに収まるサイズの黒い筒。中から細かいものがぶつかる音がした。きっとカレイドスコープだろう。それを何故天鵞絨が持っているのかは、知らないけど。
「トキとは友達だったよ。そこのルナと合わせてね。僕らそこそこ楽しくやってた」
月白の方を見る。彼もやはりちいさなカレイドスコープを持っていた。目の覚めるような紅い筒。天鵞絨の物にも月白の物にもよく見たら分かる細かな細工がしてあって、そこに強く兄を感じた。目眩がしそうなくらい、強く感じた。
「死ぬ、前の日に。もらったんだ。僕らはもらうべきではないと思ったんだけど――思ったんだけど、頑なで、あいつ。今思えばいつか僕らが君と会うだろうって思ってたんだろうな。狡いやつだ」
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