付箋倶楽部

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「天鵞絨は、」 僕は口早に問う。 「天鵞絨は、わかるの。兄さんがどうして死んだのか」 「ファンタジィに行きたかったんだろう?」 ロッド、と月白が鋭く囁いた。天鵞絨はちらりと月白の方を見て、苦笑いした。僕の額から天鵞絨の指が離れていく。 「……いつか、わかる時が来る。それまでの暇つぶしに空を飛ぶのも良いだろうけど、たまには嘘ついて本当のことをこぼして文字に綴るのもいいだろう」 不意に視界が薄暗くなる。そろそろ下校時間のはずだ。朝昼晩がない代わりに、フロア・ライトは時間の経過で暗くなる。暗くなるということは明るくもなる。下校せねば。その前に。 「……青の付箋と、白のインク。使いたいんだけど」 「セルリアンブルーとなら、白と合わせられる」 「オーケイ、」 硬貨をいくつか手渡す。天鵞絨は斜に構えて笑っていて、月白は底光りする瞳を炯炯とさせている。僕は俯いて、青の半透明の付箋と、白いインクの細いペンを見つめる。 「……兄が、何故死んだのか、僕にはわからないわけなんだけど」 立ち尽くす僕の周りは明るい。ずっとそこに僕が立っているからだ。僕には天使のような髪も瞳も持ち合わせてはいないので、ただの明度の上昇であり僕の影の濃度の上昇である。 「たぶん、それを探してる。ずっと探してる……」 「それすら忘れてたのか。可哀想にね」 ぱちん!天鵞絨が指を鳴らす。 「緑青」 ぱちん! 「――飛行倶楽部は危険だからって、二十年前になくなったよ」 「……僕の兄さんが死んだから?」 「君と君の兄さんが死んだからだ」 ははは、と天鵞絨が笑う。それはまるで天使のような笑顔だったけど性根はきっと地球の地軸のように斜めっているのだろうし、それはうっすらと透けて見える。
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