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「君のお兄さんが死んだのは事故だよ――間違いなく事故だった。ただ、君のは自殺だね。それは覚えてるかい」
「……忘れてた」
ざ。ない風を感じた。耳鳴りのする風。エアプレーンに乗っているときの風。エアプレーンから手を離して真っ逆さま。そんな時だって風は吹いていた。
「ずいぶん混乱してしまったようだ。哀れな。そろそろ星へお帰り」
「でも――」
ぱちん、と瞬きをしたら星が鳴るように光が散った。
「でも、兄さんが」
「君の兄さんはもう星へ帰ったよ。僕らにこれを預けてね」
じゃらり。カレイドスコープ。カレイドスコープは、兄の声を思い出す。カレイドスコープは元々上を見上げてのぞき込むものだったんだ。光を求めて、見上げるものであった。
「兄さんは星に帰った?」
「帰ったよ」
天鵞絨の声はニュートラルで、ある種の優しさが込められていた。ぱちぱち瞬きすれば、やはり光が散る。
「それなら――」
じゃらり、と僕の手からカレイドスコープが落っこちた。綺麗な蒼の筒。床の上でちいさく跳ねて、そのまま粉々になる。無数の青いビーズが星みたいに散らばった。
「それなら、兄さんを殺した僕も、星に帰れる?」
「……君の兄さんは事故で死んだよ」
「僕のせいで死んだんだよ。知らないの?」
光が散る。
「僕のエアプレーンに兄さんが乗ったんだ。僕のエアプレーンは調子が悪くて、兄さんの新しいエアプレーンが羨ましくて。あの日、僕が駄々をこねずにいたら良かったんだ……」
「トキがそんなこと思ってると、君は言うのかい」
「そんなこと思うわけないだろう。兄さんは寡黙で取っ付き難い人だけど、優しい人だった」
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