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そうだろう?と僕は言う。兄さんは、兄さんは、兄さんは。
「兄さんは、君たちにとって、良い友人だっただろう?」
「最高の友達だったね」
ずん、と空気が暗くなる。セルリアンブルーの付箋を一枚取る。白いインクのペンで、なにかを書こうとする。なにかを。
「……真実ばかりを、書いてはならない?」
「うん」
「……」
白のペンは細い。ずんずん世界が暗くなって行くので、僕はぱちぱち瞬きしながら十数文字の世界を作り上げることにする。書き上げて、天鵞絨に差し出す。
「これ、よろしく」
「自分で貼った方がいいんじゃないか?」
「いや、僕はもう、行くべきだ」
「……ふぅん」
斜めった笑顔を浮かべて、天鵞絨は僕の手から付箋を取った。セルリアンブルー。きっと青空と同じ色だった。それがあの汚い壁を構成するのだ。まるで青春。
「じゃ、これをあげよう」
「……勝手に人のを取ったら、怒られるんじゃないの」
天鵞絨は僕の手にあのワインレッドの付箋を貼り付ける。兄の筆跡の兄の擦過傷。骨。
「付箋倶楽部の罰則は三ヶ月続く。僕にとって三ヶ月なんて瞬きのようだからね」
ふふ。紙の擦れるような笑い声。フロア・ライトはいよいよ暗黒じみてきている。ただ、僕のばらまいた兄のカレイドスコープだけが明るい。この星の石で作ったビーズだからだ。この星で作られたものは含有する温度が高い……。
「天鵞絨、月白。ありがとう。さよなら」
「さよなら」
「さよなら」
巡回バスが出る合図のベルが鳴った。ばたばたと生徒達が玄関へ向かっていく。みんな首から半径3メートルの灯りをぶら下げて、僕らなんて眼中にない顔をして。ぱちん、と天鵞絨が指を鳴らしたら数人がこちらを振り向いた。
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