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「さよなら」
「さよなら」
「さよなら!」
ほんの数秒間のファンタジィを作り上げるのは付箋倶楽部部員に決まってた。天井まで谺響する別れの言葉。行きなよ、と月白が囁く。天鵞絨は斜めの笑みを浮かべている。
「……さよなら!」
光が散る。フロア・ライトはもう微かな灯りしかともしていないので、半径3メートルの灯りをつけて、僕は歩き出す。制服を着た学生と四角い服を着た先生とすれ違って、僕ははるか昔になくなったという飛行倶楽部のエアプレーン倉庫に向かう。
倉庫の鍵は閉まっていた。
天鵞絨の真似をする。ぱちん!
やはり現実が弾けるような音だった。音もなく開いたドアを押して、埃の中にうずくまるエアプレーンに歩み寄る。紙飛行機のように白いエアプレーン。重さは350グラム。驚くくらい軽いそれを片手で持ち上げる。
この星には風がない。
だから僕が作るしかないのだ。
走る。まるで鳥のようだった。地を蹴れば空気を羽根いっぱいに含んだエアプレーンは容易く空に飛ぶ。満天の星に向かって僕は。
瞬きをすればやはり光が散る。
飛ぶ鳥のように空を仰向けば、光を思う存分含んだカレイドスコープのような空だった。
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