白い鳥は空を飛んだか。

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「ロッド」 かつん。僕はガラス製のテーブルを爪で叩く。僕が目の前に立つロッド――天鵞絨――の名前を呼んだわけではなく、低い声が暗闇から響いて、彼の名前を呼んだ。僕は黙ってテーブルを爪で叩いて、頬にかかる長い髪をかきあげた。 「なんだい、トキ」 僕のすぐ目の前に立っているロッドは暗黒となった世界に躊躇わず返事をした。首からぶら下がる半径3メートルを照らす豆電球は付けないまま。 「俺の可愛い弟を騙すのはやめてくれ」 「でも緑青はいい加減、この学園から解き放たれるべきだろ?」 「そうだけれども。ロッド、何故俺が事故死だと言い張った?」 「それは――」 僕はかつん、と爪でテーブルを叩いている。半径3メートルの光を灯すかどうか考えながら。ロッドは黙り込む。饒舌すぎるほどに饒舌なロッドが。寡黙なトキが苛立って声を荒らげるまで、黙った。 「――ロッド!」 「ああもうわかったよ!トキには敵わない」 僕はため息をつく。机を叩く。たんたん。ぼんやりとフロア・ライトがつく。僕の半径3メートル。購買部を中心とした半径3メートル。 「ルナ、余計なことをするな」 「なんてったって君の言う事を聞かなきゃならないんだ、ロッド」 僕は冷たく言い放って、ため息をつく。口を開く。口を開いて、閉じて、声帯を震わせて、舌を蠢かせて。喋る、という動作はどうもグロテスクだと思う。体内に収めていた感情を器官と空気を無理矢理動かして無理矢理吐き出させる。 「ロッド、最期くらい素直になれよ」 「僕はいつだって素直ないい子だ」 「馬鹿言うなって。トキ、帰っちまうぞ」 ロッドは唇を噛み締める。僕は静かにトキの方を見た。頭がかち割れて白い脳みそと赤い血液が零れているトキ。救いは深緑の瞳と薄い唇は静かだったこと。
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