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「しろ、」
「なに」
かつん。名前を呼ばれたので、机を爪で叩く。いつもの癖で顎を上げる。傲慢に見えるからやめろと言ったのは。誰だっただろうか。トキだっただろうか。トキは、僕のことを、しろ、と呼ぶ。猫みたいだなと言ったら、猫なんてとうの昔に絶滅しただろう?と言われた。
「しろ、ロッドのことは、よろしく。俺はもう行くけれども」
「ああ、良い夢を」
人、の、死ぬ、姿、というのは。いつだってグロテスクだった。彼のように凄惨な死体を晒した者でなくとも、例えばそれが病気によるもので外傷はなかったとしても、その姿はグロテスク。そう思っても、言ったことはなかった。生きている者より、死んだ者を相手に話す方が多いので。
唇を動かす。僕はグロテスクにトキに話しかける。
「トキ、君は、最後まで僕のことをルナって呼ばなかったね」
「……」
ぱちん、トキは瞬きをする。きらきら光が散った。兄弟だなぁと僕は机を叩きながら思うわけである。死ぬ前、誰もが死んだ時の姿を晒す。そして何かしらの異変を起こす。姿が半透明になったり花弁を吐き出したり。
ぱちん。トキは瞬きをする。光が散る。
「だって、ルナって呼ばれるの、嫌いなんだろ?」
「……うん、まぁね」
「なら、うん。俺は君のことしろって呼ぶよ。もう最後だけど」
「そう。だから僕は君のこと好きだよ」
「ありがとう。君は良い友人だったよ」
ロッド、と僕はちいさく囁く。彼独有の癖で、立ってる時、歩いている時、座っている時、彼は決して踵をつけない。つける時もあるよ、とロッドは言うのだけど、その姿はなかなか見ることはなかった。
「……トキぃ、」
間延びした口調でロッドはトキに話しかける。いつもそうだった。最後の時間を1秒でも伸ばしたいのだろう……。
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