白い鳥は空を飛んだか。

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「トキぃ、僕は嫌だよ……」 「……うん」 「でも、緑青があんまり可哀想だった。彼、僕が少し誤魔化したらもう正しい記憶忘れちゃった。哀しいよね。彼、君の死んだ理由も忘れちゃった!」 「それ、お前のせいって言って欲しいの?」 「うん」 ロッドは躊躇いなくうなずいた。僕は机を叩く。 「緑青が、鳥になってくれたら嬉しいと思ったんだ。トキ、ねぇ、君の弟がまた、空を飛んでくれたら嬉しいと思ったんだ。緑青はね、君が自殺して、エアプレーンにも乗らなくなって、手首をかき切ったんだ……」 「わかってる。わかってるよ」 「わかってない。トキのこと、僕がどれだけ大好きなのかわかってない」 まるで駄々をこねる子供のようだった。ロッドによくある事だった。あまり好意に慣れていない。世界をひねくりすぎたのだ。ほんの少しの好意でも敏感に反応してしまう……。 「だからね、トキ」 ロッド、と僕は囁く。 「トキ、君がここにずっといたいなら、僕はそうすることだって出来るんだ。どうせ君のことだから、弟が空から消えるまでずっと待ち続けるんだろう?嫌だ。嫌だよ。なんてったって君がひとりじゃないといけない……?」 「ロッド」 強く囁いたのはトキだった。じゃらり、と僕の手のひらの中でカレイドスコープが転がる。ちいさな穴を除いてフロア・ライトに向かって俯いたら、視界いっぱいのうつくしい世界が広がる。僕はそれを、トキが作ってくれたそれを、お守りみたいに握りしめる。 「ロッド、悪い癖だ。やめた方が賢明だね」 「なにが?」 「それは寂しいって言うんだ。寂しいのなら寂しいと言うべきだ。寂しいんだろう?」 「……うん」
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