付箋倶楽部

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ざ、とないはずの風を感じた。薄暗い、図書館の最上階でのことだ。僕は舞い上がる埃に顔をしかめて首からぶら下がるランプのスイッチを押した。かちり。半径3メートルが照らされるランプ。豆電球型のありふれたランプだ。 ざ。やはりないはずの風が吹く。 図書館の最上階の最奥部の壁には本はなく、びっしりとありとあらゆる色の付箋が貼ってあった。インディゴ、ブルー、ビリジアン、カーキ、ガーネット。半透明の付箋だから、下の付箋が透けて色が混じって見える。カラフルと称するにはあまりに構成する色が汚くて多すぎた。 僕は黙って電球を持った手を伸ばす。付箋には違う筆跡で違う色の文字が書かれていた。あらゆる色の細いライン。まるで擦過傷のようだと思いながら、くだらない戯言ばかりだと内心で吐き捨てた。 『あるかいどは夢を見ちまったってよ。』 『リングノートのリングが壊れました。』 『ついに木星の輪っかを手に入れた!』 『この水色のリボンは、きっと先生のものだな……』 『チョコレイト、明日裏庭にて。ひとつ300円。』 『小指からポラリス色の結晶が産まれた。』 『きっとあれは告白だったな。僕は黙っているけれど。ずっと黙っているけれど。』 『明日の天気は晴れです。ひつじが良い夢を見るので引きずられないように注意。』 『昨日買った珊瑚の絵の具は最高だったな。』 『カレイドスコープに入れるものを募集している。骨が良い。』 「……骨」 ワインレッドの付箋にビリジアンの細い擦過傷のある、その付箋に手を伸ばす。カレイドスコープ。骨。壁に貼り付くそれを引っ張る。 「――や、君、辞めた方が懸命だと思うね」 ふふ、と紙と紙が擦れるような笑い声が耳元でした。咄嗟にその声を振り払うように背後を振り返る。
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