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「薄藍と金色ペンの人を甘く見ない方が良い。一枚くらいバレやしないと思ったって、必ずバレる。誰も見ていなくてもバレる。それが薄藍と金色ペンの彼だから――」
気配なく僕の後ろに立っていたその少年は、気安げに笑う。彼は壁に手を伸ばした。あちこちに散在するインディゴの付箋が、ぺたり、壁に貼られる。文字の色までは見えない。ぱちん!彼は指を鳴らす。
「君。マナー違反というものだよ。確かに部則に貼ることを見てはならないという文言はないけれども、見るべきではないよ。付箋倶楽部というのはそういうものだろう?」
「……付箋倶楽部?」
「……おや」
彼は青色の瞳を細めた。彼の首にも小さな豆電球がぶら下がっていて、LEDの青みがかった光を半径3メートルに投げかけている。この学園の制服である白いシャツとネイビーのネクタイ、長ズボン。長ズボンということは、高等部の先輩だろう。
「君、何年生だい」
「中等部の3年生」
「そうか。僕は高等部2年生。名前は?」
「緑青(ロクショウ)」
「なるほど。僕は天鵞絨(ビロウド)。どうぞよろしく」
「……よろしく。で、付箋倶楽部ってのは?」
紙が擦れるような笑い声がまた響く。埃がどうもうざったかった。図書館というのは過去の栄光であり、ここまでわざわざ来るような生徒はなかなかいない。掃除なんてされていないのだろう。
天鵞絨と名乗った彼は青色の瞳を細める。斜に構えた笑い方で、これがきっと彼の本来の笑い方だ。
「そうだな、君、所属の倶楽部は?」
「飛行倶楽部(フライトクラブ)」
「それじゃあだいぶリアル寄りだな」
彼のその言葉に揶揄の響きがあったので、僕はほんの少し苛立ちを感じる。飛行倶楽部は人気の倶楽部で、なかなか入ることが許されないのだ。中等部で入れた者はそういないってのに。彼は実に愉快そうに笑う。
「おや、不快な気持ちにさせたのなら謝ろう。お詫びにこちら側へご招待」
「こちら側?」
「ファンタジィさ!」
天鵞絨は芝居がかった仕草でぱちん!指を鳴らす。背後にはカラフルとは言い難い壁。埃。薄暗い空気。半径3メートルの光。青色の瞳とプラチナブロンド。
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