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「ファンタジィ」
僕は鸚鵡のように繰り返した。そんな言葉はついこの間聞いたばかりだと思いながら。
「そう。ファンタジィ。どうだい、こちら側へ来る勇気はあるかい」
「……ああ、そうだな、」
そんな言葉はついこの間聞いたばかりだと思う。
「たまにはそちら側に行くのもいいだろう」
ぱちん!先輩は指を鳴らす。やはり芝居のような仕草だ。チャイムの鳴る音がした。プラネット・ターミナルまでの巡回バスが出る合図だった。
「君、家はどこだい」
「カノープス。でも、まあ、元々次のバスで帰るつもりだった」
「ならいいか。じゃあ行こう」
「どこに」
好き勝手に歩き出す天鵞絨の後ろ姿に話しかける。はやり彼は非常に芝居がかった仕草で指を鳴らす。皮肉気な斜に構えた笑い方。
「購買部さ」
*
「ルナ!」
購買部は一階にあり、足元から照らすフロア・ライトの光を享受出来る場所にある。ルナ、と呼ばれた購買部の店番は非常に不愉快そうに目を細めた。
「その呼び方はやめろ、ロッド」
「ニックネームをつけたのはそちらからだろう?」
「ニックネームをつけて呼んでくれと頼んできたのはそちらだ」
長い髪を振り払う仕草をして、購買部の店番は僕を見た。蜂蜜がひと匙だけ混じったミルクみたいな瞳と髪の色だった。薄い色の唇が不愉快そうに歪む。
「つまりなんだい、ロッド。君、またかい」
「またとはなんだ。失礼だろ」
「三ヵ月前もこうやって僕の元に連れてきた。彼が元々付箋倶楽部を知ってるっていうんなら別だが――君」
店番は傲慢に顎を上げる。底光りする瞳だった。
「君、付箋倶楽部の存在は知ってたのかい」
「残念ながら、まったく」
「まあ、彼、飛行倶楽部の所属らしいからね」
「飛行倶楽部」
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