付箋倶楽部

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店番は唇を歪める。フロア・ライトを享受するための透き通ったガラスの机をかつかつと指で叩く。 「飛行倶楽部だって?僕は全くもって反対だ。やつらはリアルだよ。こちらに入るべきではない」 「ワインレッドとビリジアン」 天鵞絨は購買部の机の上にある商品を勝手に動かして勝手に作ったスペースに行儀悪く座る。長い足を持て余すようにして。フロア・ライトで照らされた彼の顔は笑っている。 「君、兄さんが死んだんだろ」 「おい、ロッド」 「らしくないぞ、ルナ」 切り捨てるような言い方を天鵞絨はする。息を詰めた僕の様子なんて分かりきってるだろうに。店番はため息をつく。蜂蜜をひと匙だけ入れたミルクみたいな髪を掻き上げる。 「ああもういいさ。勝手にしろ、ロッド」 「オーライ」 ぱちん!天鵞絨は長い指を鳴らす。 「付箋倶楽部について説明しよう。簡単さ。あの壁に付箋を貼り付ける。飛行倶楽部に比べたら随分簡単だろう?」 「……なんてったって、付箋なんか」 「推論なら幾つか」 ぱちん!まるで現実が弾けているような音だ。 「まず、購買部で売られているものだから」 「……うん」 「そして付箋はいつか必ず剥がれる。空間に限りがある。ありとあらゆる色がある。安価で買いやすい。つまり日常生活に溶け込みやすい。それをファンタジィの道具に使おうってことだから僕は脱帽するね」 「つまり……」 「おっと、もう結論を求めるのかい」 「ロッド、君の話がまどろっこしいんだよ」 「そりゃあ失礼」 天鵞絨は足を組む。僕は腕を組んだ。少し肌寒い気がした。廊下であっても毎日変わらない温度を保っているはずなので、それはただの錯覚なのだろうけど。
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