付箋倶楽部

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その後に、自分の名前は違うけどな、とでも付け足しそうな自虐っぽい笑い方を、月白はした。月。ルナ。ムーン。太陽がその寿命を終えてブラックホールに成り果てたとき、月もその中に飲み込まれていったはずだ。 「で、どの色にする。同じ色の組み合わせは使うことは出来ない。どの組み合わせが使われているかはこちらが把握しているから」 月白は頬にかかる長い髪をうざったそうに掻き上げる。切ればどう、と言いかけて、やめた。耳元で乾いた笑い声がした。ぎょっと振り返れば、うつくしい青い瞳がそこで笑っていた。 「君は今正解を選んだよ。さあ、どの色にする?君のお兄さんが使ってた色はまだ使えないけど」 「なんで、僕の兄さんが死んだって知ってるんだ」 「付箋倶楽部の部員だったから。さ、選びたまえ。もう少しで巡回バスが出る時間だ」 かさかさ乾いた笑い声がした。苛立ちに任せて口を開こうとすると、ぐっと半袖のシャツを引っ張られる。月白だった。こうして並ぶと案外月白は身長が低くて、天鵞絨は身長が高かった。 「緑青、君、あんまりロッドの話しは真面目に聞かない方が賢明だね。こいつはまともに話そうと思っちゃいないんだ。返事をすれば返事をするほどこいつは喜ぶ。黙ってるのが一番賢い」 「おいおいルナ、それはあんまり酷い言い草じゃないか」 「黙れ。僕はこのいたいけな後輩をお前の毒牙にかけたくない一心なんだよ」 「……兄は、」 僕は勝手に話し出す。底光りする瞳が二対、こちらを見た。 「兄は、カレイドスコープが好きな人だった。いくつもいくつも集めてた。自分で作ってもいたんだ。そしてビリジアンとワインレッドが好きだったんだ」
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