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「…そろそろ映画館の方に行こうか。」と提案した。
すると彼女はそんな時間になっちゃったんだと驚いたようで小声で呟くと、「早く行こう!」と言って僕の袖を引っ張り、人の波に逆らって来た道を戻ることにした。その時僕は人の多さがさっきよりもマシになっていて良かった程度しか思っていなかったが、
「もし桜が咲いていたらその桜が本当にあるか今度見に行こうよ。」
聞こえるか聞こえないか分からないくらいの声で僕は彼女に伝えてみた。
すると彼女は何も言わず僕のほうを見ると袖口から手を放してから黙って僕の手を握って頷くとどんどん歩いていく。
僕はその自分の手よりも小さな手を握り返し、そのまま一緒に映画館に行こうとした。
そのまま映画館に行こうとしていた。
すると突然後方で女性の声質の違う黄色い悲鳴が聞こえてきた。
僕たちは驚いて振り返ると、ちょっと先の方でさっきまで大勢いた人々が道を避けているようにしているように感じた。
理由は分からない。
けれども直感で何かまずいものがやってくるのだけは分かった。
「早くここから離れよう。」
僕は彼女の手を引き、この場をさっさと離れようとした。
「待って!」
何かを見つけたらしい彼女は僕の手を止め少し立ち止まった。
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