始まり

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彼女は女の子の手を握ってこちらに来ようとしたが、女の子は膝が痛いのかうまく歩くことが難しいらしいようで2人の歩幅の歩調が合わない。 彼女はここままだと追いつかれてしまうと思ったのか女の子を抱きかかえながらも懸命に駆けてきた。 残念ながら走り出してきた男の方が早いのは見て取れた。 彼女たちを助けないと。 そんなこと頭ではわかっている。 頭ではわかっているはずなのにまるで鉛になったみたいに足が動かない。 体が固まって動けない。そう感じている内にもう彼女たちと男は目と鼻の先だった。 「この子をお願い!」 身の危険を感じて懸命に僕に女の子を託したその言葉は僕が聞いた彼女の最期の言葉になってしまった。 恐ろしく叫ばずにはいられない状況でも彼女は女の子の無事を優先し、つないでいた手を僕に託した。 そんな彼女に容赦なく男がナイフを突き刺したのは僕が女の子を受け取ったとほぼ同時に、僕の目の前で、だった。 男は下品な笑い声を響かせながら、彼女の腰に刺したナイフを抜き、今度は後ろ太ももに何の躊躇いも躊躇もなく突き立てた。 刺された腰からは血がどんどんと先程まで歩いていた道も彼女の服もペンキをぶちまけたように赤くさせ、男の手や顔・赤と白に変色したまだら模様のシャツに彼女の赤い血が新しく上塗りしていくように見えた。     
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