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何年か前に自分が調理実習とかで使っていた包丁の類はあんなにも簡単に人に刺さってしまうものだっただろうか。
残酷なまでに淡々と広がる現実に意識が飛んでしまいそうになりながらもなんとか女の子にはこの光景を目の前で見せないように抱くくらいしかこの時の僕にはできなかった。
彼女の驚いた顔が少しずつ悲痛の表情に変わっていく。
「ああああああああああああああ!!!!!!!」
僕は今までに出したことのない獣のような声を出した。
なんで僕はこの場から動けない!
なんで僕はこの状況を見るしかできない!
男は声を上げた僕の方を向くと彼女からナイフを抜くと遊び飽きたおもちゃのように彼女を道に叩きつけたかと思うと今度はキラキラと輝かせながらこちらに走ってきた。
もう男の下品な笑い声以外僕の耳に入らず、世界がスローモーションのように動いて見えた。
男に背をむけてなるべく女の子の視界に入れないようにしてから「生きたいなら走れ!」と短く伝えると女の子は僕の腕の中から飛び出して振り返らなかった。
先ほどまで止まっていた子とは思えないほど懸命に力強い走りだった。
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