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いい気になった僕はあろうことか、ヒロコちゃんを介抱する。大学ではこんなあられのない姿は想像もできないほど凛としていて、ショートカットの金髪の似合う女だったのだけれど、ギャップも相まって僕の鼻孔や視覚のいちばん気持ちいいところを刺激され、くっついた体のやわっこさに心底欲情してしまう。
僕には付き合っている人がいる。
ヒロコちゃんにも、いる。
言い聞かせながら、残り少ない理性を保ち保ち、なんとか電車に乗りつける。あとはヒロコちゃんの下宿先の最寄り駅まで送ってさようならだ、と。
「あらら、寝ちゃだめだよ。起きたときしんどくなる」
そう言ってやったころにはもう遅くて、小さくて可愛らしい頭を僕の肩に預けてくうくう寝息を立て始めた。
やれやれ、しょうがないな。駅に着くなり僕はヒロコちゃんをおぶさって、下宿先まで歩いていく。もともと力強いほうではないけれど、華奢なヒロコちゃんくらいなら容易におぶされた。
カンカンカン、踏切の音が遠ざかって行って23時の住宅街はクリスマスということもありどことなくざわついている。冬の冷たい夜風にヒロコちゃんが冷やされないように、ときどき手をさすってやりながらアパートに着き、じゃあ僕はこれで。
「電車、あるの?」
「あるよ。今日はありがとう。あったかくして、寝てね」
「泊っていけばいいのに」
願ってもない提案だ、だけれど。
「それは、ヒロコちゃんの彼氏にも申し訳ない。僕にも彼女がいることだし」
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