0人が本棚に入れています
本棚に追加
そういうとピョンピョン飛び跳ねながら出て行って、店員さんがおしぼりとお通しを持ってきたのに首をかしげて下げてしまいました。
深淵ちゃんという女の子が出たのは二ヶ月前。あれは雨の日の仕事帰りでした。私はとにかく早く帰りたかったのでバスに乗ろうとしていました。すると明らかに異様な雰囲気を纏った、腰まで伸びた黒い髪の少女を見つけたのです。彼女はバスの進行方向の、歩道に立っていました。
ああ、この子は深淵ちゃんだ。そう名付けたのはほかでもないこの私なのです。間もなくバスは走り出して交差点を右に曲がって行ってしまったので、深淵ちゃんに見とれていた私はうっかり乗りそびれてしまいました。少し残念に思いながらも次のバスまでは時間があるので徒歩で帰ろうとした、そのときです。
「危なかったわね」
五十メートルも先にいる彼女の声らしき声が、耳もとで聞こえました。うわっ、と大して可愛くもない悲鳴を上げて、ビニール傘を投げ捨ててその場をあとにしました。猛ダッシュで。
しばらくして、ドンという何かがぶつかる音と人のものではない、ハトのような声が何かにがんじがらめにされたみたいに響きました。
最初のコメントを投稿しよう!