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SUICIDAL SHINEN GIRL
彼女を見つけました。深淵ちゃんです。こんなところにいるとは思いませんでした。
なんとなしに寄った居酒屋で、私は禿げた部長からのお誘いメールをやんわりと断りながら日本酒をあおっています。大吟醸です。
らっしゃーい、こちらの席へどうぞ。カウンター席に座る私の隣に彼女、深淵ちゃんは腰掛けました。
「ねえ、あなた。つらいんでしょう?」
「深淵ちゃんそこ、椅子じゃなくてテーブルだから」
「何故あたしの名を知っているの?」
「とりあえずテーブルから降りたほうがいいと思う」
がたって降りると深淵ちゃんは私の手を掴んで迫真めいた一言。
「あなた、深淵に片足突っ込んでるわよ」
こう言うのです。がたがた震えて、大吟醸が飛び散ります。他の客が顔を真っ赤にしているというのに私は澄み切った春の空みたいに青ざめて、深淵ちゃんに訊きました。
「私のどこが深淵なの?」
「それは言わない約束でしょ。嘘だと思うならあたしの眼を見てごらん」
黒。黒黒黒黒黒。黒。
吸い込まれそうな黒で、彼女の着ているバンドのロゴが入ったTシャツも黒です。
「どうするかはあなた次第。あたしは帰るわね」
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