平日

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彼女が、遅刻ギリギリにならないと家を出ないから、いつからか、朝は一緒に登校するようになった。 小学校と中学校は隣同士だったが、高校は少し遠くて、昨年は一年間、バラバラだったけれど。 いつも通りの時間に、彼女の家の前に自転車を止める。 玄関先でバタバタと、これまたいつも通りに繰り広げられる騒ぎを、潮騒と共に聞き流す。 「チロ、おはよう!」 髪をピンクのシュシュで纏めながら、彼女が出てくる。 「お前、それ校則違反」 自転車の荷台部分に跨る彼女の鞄を引き取りながら、そう指摘する。 「大丈夫、学校着いたら黒に変えるもん」 「何だそれ、意味無くね?」 笑って、自転車を発進させる。 彼女は自然、俺の腰に手を回してくる。 毎朝毎朝、心臓に悪い。 しかし、俺がこの役割を降りたその後を考えたくなくて、ズルズルと引き受けているのだ。 我ながら女々しい。 家を出てすぐは、暫く海岸線を真っ直ぐに走る。 海に朝日が反射して、キラキラと輝く。 きっと、それを眺める彼女の瞳も同じように光を取り込んで、同じような透明さを放っているのだろう。 その光が、俺に向いたら良いのに。 その時、石か何かを踏みつけたようで、縦の衝撃を受けた。 ぼうっとしていた為、普段は適当にやり過ごす揺れに、必要以上にバランスを崩した。 「のわっ!」 「えっ、何!?」 急ブレーキを踏んで、足を着く。 彼女の顔が、俺の背中にぶつかる。 「痛った……。ちょっ……何よ!」 「悪ぃ、石踏んだっぽい」 「はぁっ!?」 背中を一発、かなりの威力で叩かれた。 背後からの攻撃に、息が詰まる。 「だから、悪ぃって」 「あぁもうっ、チロのせいで前髪ぐちゃぐちゃ! 最悪!」 「んなもん、チャリ乗ってる時点でぐちゃぐちゃだろうが!」 「それとこれとは別! チロって本っ当女心分かってない!」 「分かるかよ! 俺は男なんだよ残念ながら!」 「森クンは分かってくれるもん!」 言うなり、手櫛で髪を梳かし出す。その姿に、苛つく。 森クンは、彼女の彼氏だ。 ああ言ったけれど、俺にだって女心っていうのは、大方そいつの為と予想がつく。
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