平日

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その日の放課後、家とは正反対の方向に自転車を進め、プレゼントを買いに行った。 そして、二時間。俺はひたすら悩んでいる。 指輪とか、ネックレスとか、特別感が出そうなものは避けたいし、かといって、手軽なメモ帳だとかの文房具は、彼女の友人と被りすぎてキレられたことがあるしで、正直八方塞がりだ。 もう何軒目か分からない、雑貨屋に入る。小さな店で、何処かの国の民芸品を扱っているらしい。瞳孔が全開の木彫り人形やら、見たこともない文字が書かれた木の棒やらが、所狭しと並べられている。 失敗した、と思ったが、どうせ他へ行っても目ぼしい物は無いのだ。 ならいっそ、訳の分からない物を買って驚かせてやろうかと、妙な悪戯心がはたらいた。 片っ端から、商品を見ていく。 当然、値段とも相談しつつだが、途中で、もしや大変な決断をしてしまったのではないかと気付いた。何しろ、価値も意味も全く分からない。 何故か両耳が、頭を貫通する針金で繋がっている兵隊(耳は左右に動いた)がいた。 足がバネになっていて、つつくとびよびよと四方八方に動く置物があった。 体が卵形で、中年太りのおっさんみたいだ。 まともな物も、無い訳ではない。ペイズリー柄で、緑みの浅い碧から水底みたいな深い藍までのグラデーション生地のシュシュがあった。 それが目についたのは、今朝の一件があるからだ。 しかし、アクセサリー類に括れる物は、避けたい気持ちの方が強かった。 一週間も無くとも、あんな些細な言い合いは忘れてしまうだろうが、と言うか、名前呼びが聞かれたなら未だしも、これまで伝わらなかったものが、あれで伝わるとは思えないが、彼氏でも、増してや彼女の本当の兄でも何でもない人間が、そんな贈り物をするのは、卑怯なんじゃないか。彼女にこの想いを悟らせないでおきながら、我欲だけ押し付けるなんて、彼女に対して、失礼なんじゃないか。 あれやこれや悩みつつ、卵オヤジをつつきまくる。糞真面目な顔をしてる辺りが異様に癇に障る。
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