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「何か、お探しですか?」
そんな俺に何か感じとったのか、それまで店の奥にいた店主と思しき女性が、話しかけてきた。
「た、誕生日、プレゼントを。あ……妹、の」
途切れ途切れに、言ってみる。『妹』と言う単語は、言い慣れたものだ。
「妹さんですか……。もうすぐなんですか?」
「はい。来週」
「じゃあ、今触っていらっしゃるその子なんて、良いかもしれませんねぇ」
「……これですか?」
思わず怪訝な顔になってしまったのは致し方ない。
俺の無礼な反応を微笑みで流して、女性は丁寧にもその人形について説明をしてくれた。
「それ、海とか川とか、水の事故に合わない為のお守りなんですよ。この辺りは海が近いですし」
海、その単語に、どくり、と一度頭の中で音がした。今朝の、彼女の横顔がちらつく。
一方、卵と海がどう繋がったらそうなるんだ、という突っ込みを寸でのところで飲み込み、頷く。
「良かったら、ラッピングもしましょうか? こんな風にしたら、可愛くなりますよ」
続けて、女性はそう言って、あのペイズリー柄のシュシュを、取り出した袋の口に付ける振りをした。
「そういう使い方も、あるんですね」
髪に着けるものだとばかり思っていた。
これなら、アクセサリーにならないか?
そんなせこい自分騙しが頭に浮かんだら、アウトだった。
後悔するのは自分の癖に、彼女のことを理解しているのは俺だと、言いたくて堪らないのだ。
「それで、お願いします」
彼女の大切な日に、彼女に一番似合う物を、贈りたいのだ。
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