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「・・もうウンザリだわ」
私の傍らからゆらりと立ち上がる華奢な影。
手を縛られているせいか、決して優美とは言えない動作ではあったが、それが逆にある種の不気味さを感じさせる。
俯き気味な角度のおかげで表情は確認できない。
だが言葉に込められた剣呑すぎる冷気、そして不可視の炎のように全身から立ち上る殺気は尋常なものではなかった。
「あ、彩乃・・くん?」
自分の知っている《斎藤 彩乃》という人物とのあまりのギャップに、開いた口が塞がらない。
とはいえ銃を持った相手を刺激するような行為を黙って見過ごす訳にもいかず、慌てて止めに入ろうとした私は気づいたのだ。
さらりと伸びる黒髪の間から、辛うじて見える口元。
異性だけでなく、同性すら憧れるであろう形の良い唇が・・小さく、しかし高速で動いている事に。
「・・折角今日は彼氏に誕生日のお祝いをしてもらう予定だったのに人がいないからって急に出勤になった挙句こんな災難に巻き込まれるなんてほんっとサイアクっていうか給料がやたら良かったから来てみたら変な置物ばっかで見るからに怪しいし一人しかいない上司は変わり者の胡散臭いオッサンだしそもそも何で私まで一緒に悪魔呼ばわりされなきゃなんないんだっつーのこんな事ならいっそ(以下省略)」
・・・。
・・・・。
・・・・怖い。
怖いよ彩乃くん。
これが世に言う《ディスられてる》ってヤツじゃないのかね彩乃くん。
色んなものを垂れ流しそうになっている私の横で、呪いのように口から鬱積した不満を垂れ流し続ける彩乃くん。
「美女」
「呪い」
とキーワード検索をかければ
「彩乃くん」
とヒットしそうなほど真っ黒なオーラを放つ彼女の姿に、息を飲むことしか出来ない。
だがその挑発的とも言える態度に、苛立ったようなような銃口が向きを変えた瞬間、私は思わず声を上げていた。
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