転生漢

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謙芯「わしは幼き頃より、ある思いを心に抱いておった。 わしのこの体は『男』じゃが、魂は間違い無く『女』じゃとな」  いつの時代にも、「性的少数者」は存在する。  謙芯は、現代で言う「性同一性障害」だった。 謙芯「…お主等は、このようなわしをどう思う?」 影勝「………」  影勝は、どう答えれば良いのか解らなかった。  このような場合の反応としては、それが普通なのかもしれない。 兼継「…手前は得心しました」 謙芯「…何故じゃ?」 兼継「御実城様の勘の鋭さ… それに『義(正義・大義)の為の戦』にこだわられるのは、『女』だと考えた方が自然かと」  確かに、兼継の言う事は的を射ている。 謙芯「流石は兼継じゃ。 お主がおれば、植杉は安泰じゃな」  やはり、わしの目に「狂い」は無かったようじゃな…。 兼継「勿体無きお言葉にございます」 謙芯「とにかく、わしは『女になる』と決めた」 「勿論普通ならば無理じゃが、忍の間に伝わる『転生漢の術』を極めれば、男に生まれた者でも『女の体を得る』事が出来るそうじゃ」 隼瀬「お言葉ですが、転生漢の術を極めるのは至難の業です。 現に能菊猿の中でも、この術を極めた者は先代の頭以外、誰もおりませぬ」  隼瀬の言う通り、転生漢の術を極める事が出来る者は稀にしか居なかった。 謙芯「何、それなら問題無い。 わしの勘が正しければ、わしが転生漢の術を極めるのにさほど時は掛からぬ」  謙芯には、そう言い切れる「理由」があった。 謙芯「さて先程申したように、わしは植杉家の当主をやめる。 転生漢の術を極めたらの話じゃがな」 「後の事は影武者に任せてあるが、その者は病でな。 おそらく、もう長くは無いじゃろう」 兼継「…となると、乱が起こるやもしれませぬな」 謙芯「おそらく、そうなるじゃろうな。 わしは『影勝が植杉を継ぐべき』と思っておるが、家中には影虎(かげとら)を推す者も少なくない」  影虎は元は於田原(おだわら)法条(ほうじょう)家から来た「人質」で、現在は影勝と同じ謙芯の「養子」である。 謙芯「わしのわがままで乱が起こるのは心苦しいが、そうなった時にはお主が影勝を支えてやってくれ」 兼継「お任せを」 謙芯「では、話はこれで終わりじゃ。 お主等二人は下がっても良いぞ」  そして、謙芯は「転生漢の修行」に入った。
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