楠瀬家の家宝

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「駄目だよ、そんなの。僕と違って青葉には将来がある。この前のダンスパーティーで、デザイン関係の人から声がかかったんでしょ? 怪盗だなんてばれたら、青葉は……」 言い終わる前に夕陽の襟元を掴むと、青葉はドスの効いた低い声で言った。 「……いつからお前は俺より格下になったんだよ。怪盗をやるって決めた時から腹は括ってんだ。また同じような事言ったら、二度と話せないようその口を針で縫うからな」 そう言うと青葉は襟元から手を離した。よろめいた夕陽の体を美優が支える。 夕陽と青葉の二人はよく喧嘩をしていたから、あまり仲が良くないのではと思っていたが、そう言うわけでは無かった。互いに認めあっているからこそ、素直に気持ちをぶつけあえるのだ。 「……ねぇ、陽希。陽希はこの先も、怪盗を続けるの? 続けたいと、思ってるの?」 壁に寄りかかりながら二人の会話を聞いていた陽希が、ゆっくりと顔を上げる。 「上でも言ったけど、私は怪盗なんて続けて欲しくない。もしもまだ続ける気なら、私は意地でも陽希を止めるよ」 ジッと目を見つめる私を見て、陽希は壁から背中を離した。 「……あんたの言う通り、俺、やっぱ最低だわ。自分の事しか考えて無かった。目先の怒りにばかりとらわれて、大事にすべきものを忘れてた。俺にとってお前達二人は兄弟みたいなもんなのに……二人の意見を無視するなんて事、俺には出来ない」 「はる君、それじゃあ……」 陽希は夕陽と青葉の顔を見る。 「なぁ夕陽、特別ルールあったでしょ? 今回は俺が最初に家宝を見つけた。だから、俺が今から言う事に従って欲しい」 全員が陽希に注目する。陽希も全員の顔を見回した後、ゆっくりと口を開いた。 「俺達はこの先怪盗を続けない。今日で終わりにする。この先の事は三人で話し合って決める。誰一人として勝手な行動はしない事。約束できるか?」 「なんか三つくらい言ってるけど……分かった、従うよ」 「あぁ、俺も」 笑顔を向ける夕陽と頷く青葉を見て、陽希は小さくありがとうと言って笑った。 穏やかに笑う三人を見て、私と美優は互いに微笑み合った。そんな私を見て、陽希はこちらに近づいた。 「……意地でも止める事にならなくて良かったな、みらい様」 「うん。やっぱり三人の絆って、強いんだね」 「決定打はそうかもしれない。けど、一番の理由は、みらい様なんだよ。それとじいさんもな。家宝が自分の娘とか、ほんと狂ってるよ……良い意味で」 やれやれといった様子で頭を横に振りながらも、陽希の顔には笑みが浮かんでいた。その表情がとても優しくて、今までのしがらみとか色々胸にあった重いものが全て落ちたようだった。
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