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「金持ちってのは、自分の事ばかりの自己中心的な奴らだと、ずっとそう思ってた。いや、そう思い込む事で、俺を捨てたあの女に対しての怒りの矛先にしてた。自己中心的なのは、どう見たって俺の方だよな」
自嘲的に笑う陽希に、私は言った。
「周りが見えなくなる事は、きっと誰にだってあるよ。あんな事されたんだから、怒りが爆発しちゃうのは当たり前。確かにやり方は間違っていたかもしれないけど、陽希達がちゃんと反省している事は伝わってるんだと思う。その人達が言う守るべき子ども達の中には、陽希や青葉、夕陽さんも含まれてるんだよ」
陽希の手を取ると、そっとその手を包み込んだ。陽希は手元を見ると小さく笑った。
「……あの人達は盗んだものを返さなくていいって言ったけど、やっぱりそれは出来ない。さっき青葉と夕陽とも話したけど、俺達は必ず返しに行く。あの人達の言う通りちゃんと学園を卒業して、自分の力でお金を稼げるようになったら必ず返す。だから……みらい様にはその日が来るまで俺の事見守ってて欲しい」
陽希が真っ直ぐとこちらを見る。私はゆっくりと頷くと、笑った。
「分かった。しょうがないから見守っててあげる」
「しょうがないってなんだよ。相変わらず素直じゃないな、みらい様は」
苦笑する陽希に、私はくすくすと笑った。
「ねぇ、陽希。私の事、ずっとみらい様って呼んでるけど……これからもそのままなの?」
「何、名前で呼んで欲しいの?」
「うーん、呼んで欲しいっていうか……様を付けて呼ばれるのが嫌だなっていう……」
困った顔をする私に向かって、陽希はちょいちょいと手招きする。
「……何?」
体を近づけると、陽希の腕が私の体を包み込み抱きしめた。
「……ようやく抱きしめれた。一ヶ月は長かったなぁ。みらい様も、寂しかったでしょ?」
「……私は、別に」
少しだけ体を離し、陽希が私の顔を覗き込んでくると、咄嗟に顔を背けた。
「強がっちゃって。こっちちゃんと見なよ、みらい様」
「だから、みらい様じゃないって……」
「みらい、こっち向いて」
「……っ!」
私はゆっくりと陽希の顔を見る。
「お、やっと向いた」
「今、名前で呼んだ……」
「だって、名前で呼んで欲しいんでしょ? なら、いくらだって呼ぶよ、みらいって」
そう言って微笑む陽希を見て、自分の顔が熱くなるのを感じた。
「あれ、照れてる?」
「……照れてない。もう良いでしょ、離して」
陽希の体を押しのけようとすると、先程よりも強い力で抱きしめられる。
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