楠瀬家の家宝

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乱れる呼吸の中、私は陽希の頬に手を添えた。 「……陽希。私、やっぱり、陽希の事好きみたい」 そっと顔を離した陽希が目を僅かに見開かせながらこちらを見下ろしている。 「……何、急に。みらい様が俺に惚れてる事くらい、分かってるっての」 そう言う陽希に私は笑った。 「ううん、ただ言いたかっただけだから」 「何それ……」 急に顔を背けると、陽希は口元に手の甲を当てた。 「……あー、やばい。無理だわ、これ」 「え、無理……?」 さっきの発言がまずかったのだろうかと焦っていると、陽希は口元から手を離しこちらを見た。 「うん、無理、もう抑えらんないわ。みらい様のせいだからね。覚悟、出来てんでしょ?」 「……覚悟って?」 キョトンとしていると、突然陽希は私の体を抱え持ち上げた。 「え、ちょっと、どこ行くの!?」 びっくりした私は、陽希の首に腕を回す。 「どこって、あっちの部屋に決まってんでしょ」 「あっち……?」 「そう、あっち」 陽希は私を抱えたまま歩き出すと、隣の寝室へと入っていった。 「ちょ、ままま待って陽希! こっち寝室じゃん!」 「そうだよ。何、向こうが良かったの?」 「そうじゃなくて!!」 バタバタと暴れ始めると、陽希は私を床へと下ろしそのまま壁へと体を押し付けた。 「だから言ったじゃん、無理だって。あれは反則だっての」 腕を掴んで壁に押し当てたまま、陽希はキスをした。 「……完全に誘ってるようにしか見えないんだけど」 「さっきのは、そう言う意味で言ったわけじゃ……!」 「もう遅い」 陽希の手が私の服を捲りあげ、露になった肌に指を這わせた。途端に声が漏れる。 「はる、き……」 「みらい、おいで」 体を離した陽希が、私の手を取り後ろにあるベッドへと座る。 おいで、と言われた私は、素直に頷いた。陽希のその優しい声に、さっきまでうだうだとしていたのは何だったんだろうかと思うくらい、陽希の事を受け入れる覚悟が出来ていた。 こちらを見上げる陽希が、私の頬にそっと触れた。 「……好きだよ、みらい」 あぁ、そうか、この笑顔に私は惹かれたんだな。陽希の優しく笑う顔を、祖父の部屋で初めて見た時から、すでにもう惹かれてたんだ。 私はこの先も陽希の隣にいたい。学園を卒業して、大人になって、迷惑をかけてしまった人達にちゃんと返せる日まで。ううん、それ以降も、ずっと。 頬に添えられた手に自分の手を重ねると、私は今までで一番の笑顔を陽希に向けた。 「うん、知ってる」 「……ばーか」 この先の私達の関係に、Limit(リミット)なんてないのだから──。 END
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