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先ほど私にハーブティーを淹れてくれた執事がおもむろに口を開いた。
「……生前、楠瀬様は大事なモノがここにあると言っていたのを私は聞きました。それが家宝であり、何らかの事情でその話しが外部に漏れたのではないかと」
「しかし、私達はそれが何なのか、どこにあるかも分かりません。みらい様も、その事については何も聞かされていないようですし……」
メイドがチラリと私の顔を見る。
「ごめんなさい、私が何か知っていれば良かったのですが……」
首からぶら下がるペンダントを私はきつく握りしめる。
「みらい様が謝る必要はございません。ただ、盗まれる物が何か分からないとなれば、どこをどう守れば良いのか……」
「とりあえず私達は、みらい様に危害が出ないようにすることだけに集中しましょう!」
団結する執事達に、私は優しく微笑みかけた。
祖父が亡くなったのに、私のことを今まで通りに接してくれることが、とっても嬉しかった。
祖父が倒れた時も、皆が私のことを支えてくれたからこうして落ち込まずに前を向いていられる。
私はテーブルの上に置かれたカードを手に取る。
「怪盗D……」
カードの端に書かれたその文字をそっと指でなぞる。
一体何者なの?
どうしてこの家を狙うのだろう?
お願いだから、これ以上皆を不安にさせないで欲しい。
ふと壁にかけられた時計を見ると、もう少しで六時になるところだった。
全員が時計を凝視する。
犯行予告まであと少し……。
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