金は天下を回る

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目の前の遊戯台に銀色の玉が跳ね回る。ほとんどの玉は真ん中に行くのを嫌って外にはじかれていった。ほんのひと握りの玉だけが台の中央よりやや下にある「ヘソ」と呼ばれる場所に落ちていく。映像が切り替わり、アニメのキャラクターによる演出があった後、同じ数字が表示される。 あとひとつ揃えばリーチだ。新井健一は今日何度目か分からない祈りのポーズをした。 数字が変化する速度がゆっくりになったかと思うと、やがて動きが止まった。それは最初に表示された数字とは異なっていた。 「クソッ」 新井は台に右手の拳を叩きつけた。 思いのほか大きな音がなったため、二つ隣の台の前に座っている三十代くらいの女性が肩をビクッと震わせた。 すぐそばを巡回していた男性店員と目があった。新井はすぐに台に向き直り、ズボンの尻ポケットから財布を取り出した。中身を確認すると札は一枚も入っておらず、小銭がいくらかあるだけだった。長年使い色が落ちて味が出たと思っていたが、今はただの小汚い財布にしか見えない。 結局今日は一万負けか……。 煙草を吸おうと思い、台のそばに置いていた煙草の箱を手に取った。しかし、今の新井の気持ちと同じく空っぽだった。 仕方なく立ち上がって店の出口へと向かった。
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