金は天下を回る

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前方から見知った顔が歩いて来るのが見えて、新井は足を止めた。 爬虫類を思わせるギョロっとした目、はちきれそうな程太った体型。元同僚の金田だった。 ヤバイと思い身を翻そうとしたが遅かった。 「おい、待てよ」金田がそばまでやって来た。「前に貸した金返せよ。忘れたとは言わせんぞ」 「あ、ああ、覚えてるよ」 新井は顔を背けた。 会社をやめて二ヶ月程たったとき、金田に飲みに行かないか、と誘われた。 その時点で金はあまりなかったが、会社で一番親しかったであろう同僚からの誘いに喜んで承諾した。会社に対する不満、仕事での思い出で大いに盛り上がった。別れる間際、酒に酔ったせいもあり、金が無くて困っていることを話した。 すると金田は財布から一万円札を数枚取り出した。 「これでしばらくは持つだろ?返すのは職が決まってからでいいから」 「いや、悪いよ」 「いいって」 そう言ってお金を押し付けてきた。 その時は金田に感謝して、早く次の仕事を探すことを決意した。しかし、その決意は次の日起きた時にはすっかり忘れていた。 金田に頼めば金を貸してくれる、ということが分かり、もう一度連絡をして金を借りた。前回と合わせて合計で十万円。金田とは定期的に連絡を取り合っていたが、新井が職を探す気がないと気づいたのだろう、貸したお金を返すよううるさく言ってくるようになった。 ここ最近は金田からの電話を無視していた。
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