草の二生

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草の二生

草の二生 彼は草だ。 道の脇小石に混じって生えている 都会じゃ見向きもされないが 彼がここにいる理由がある 彼は春に生まれた 赤ん坊というのは不思議なもので 腹の中の記憶を抱えているが しゃべる私たちには知ったこっちゃない 赤子扱いする大人をしり目に 赤ん坊は一人 鼓動を探す 昔の記憶を頼って。 それに似て 車道を走る鼓動は彼にとって心地良い それは昔腹から生まれた頃のことを思うようで。 彼は人間に擦り傷をつくらせる自分の手を風になびかせながら 一人、一枚、一瞬で乾きそうな体を震わせた もうすぐ冬が来る。また 生まれ変われる。 今度は何になろう。 女がいい。あの頃のように。 ひとり心微笑む あなたは天の裁判を知っているか ソクラテスの時代敵地で死んだも同然の 若き振るい手が生き延びて帰ってきた 瀕死の彼が生死の境で見た光景 それが天の裁判だ。若者はそれを地へ知らせるために 生き返らされたのだという 生前善い行いをしたものは好き場所へ 悪い行いをしたものは地獄でその行いに応じた年月苦痛を味わう そして裁きの間に戻ってきた時自分の望む生の糸を手繰り寄せ 生まれ変わる。 あるものは鳥の子へあるものは女へまたあるものは独裁者へ     
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