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教室からでて昇降口までの会話はなく、正門をくぐっても会話らしい会話はなかった。けれどもなぜか中村は上機嫌で、気まずいと思っているのは俺だけらしい。
学校からまあまあ歩いたところの交差点。
信号待ちをして立ち止まったときに突然中村は俺に問いかけてきた。今まで、学食がどうのこうのと話していたのに。
「なぁ、朔夜。」
しかも下の名前で。
「片山。俺の苗字は片山なんだけど。」
「ん?あ、ごめん。朔夜って呼び方嫌だったか?いつも女の子たちがそう呼んでるから移ったんだな。」
「別に嫌じゃねーけど・・」
「なら、いいか。俺は巧望でいいよ。」
キラッという効果音が付きそうな笑顔に、俺はイラッっとした。
「呼ばねーよ。第一、なんで男のお前が女子と同じ呼び方で呼ぼうとするんだよ。」
すこしきつめに言った。つもりだったのだが、
「それもそうだな。あーじゃあ、サクでどうだ?」
「は?」
ニコニコとそういった中村に頭が混乱する。
「そーだ、巧望も長いしタクでいっかな。おっし、改めてよろしく。サク」
いわゆる体育会系の友情スマイルを直視してしまった。
すでに俺は頭が痛くなっていてスマイルを見たくなくて下を向けば差し出されたこいつの右手があった。
「ほら」
と握手の催促をしてきた中村の顔をもう一度直視してしまい、本気でぶん殴ってやろうかと思ったが、それをすると女子からの批判が殺到するだろう。
夜の中とは世知辛い・・・俺も顔が悪いほうではないのに。
顔を無理矢理にでも笑顔にゆがめて、俺は右手をだして握った。
「よ、よろしく。えータク。」
「うん。」
一緒にあるいて分かった。
こいつ、話が通じねぇ。
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