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かあさまとの別れ
もうすぐ、お日様がかくれちゃう……。
「さむいよぅ……」
街から少しはずれた森の入り口。 冬の陽は短い、このくらいの暗さにデュセが外にいると誰かしらが、
「お嬢様、早くおうちに入りなさいな、今はすぐにお外は真っ暗になってしまいますよ」
かあさまが戻ってこない。
かあさまとの久しぶりの散歩。お日様が明るくて、暖かくてで楽しくて……。
いつもは森の入り口で引き返すのに、なぜか、かあさまは薬指の指輪をはずし、肩にかけていたピンクのショールをデュセの頭からかけてその裾に指輪を結び、襟に詰め込んだ。
それを服の上から触ると、胸のあたりに指輪があたってひんやりする。
ひととき、かあさまは、瞳をふせて、すぐにデュセに視線を移した。けれど、それは、どこか遠くを見てるような表情。
「かあさま?」
かあさまは、はっとしたようにひと息吸って、ゆっくりと微笑んだ。
そして、指輪が気になって胸を押さえているデュセの手にそっと手を重ね、
「デュセ、ここで待っていて。迎えにくるから、すぐに」
デュセは、こくんとうなずいた。うん、待ってる。
かあさまも柔らかく微笑んだまま、うなずき、大きく息を吸い込んで、
「いい子ね。本当に、すぐだから、ね」
そう言って、手を離し、街へ行ってしまった。
何度も振り返りながら、まもなく、その姿も見えなくなると、デュセは、かあさまの手の温もりをなくさないようにギュッと手を握る。
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