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強い風がデュセの背中を押した。そして、白い粒が舞ってきた。
その瞬間、一気に周りが暗くなった。
「かあさま……こわいよぅ」
「さむいのは、いや……」
デュセはこんな暗くて寒いところは知らない。
顔も足も耳も冷たい、手はどんなに息を吹きかけてもすぐ冷めてしまう。
かあさまの手温かさはもう残っていない。瞳の淵にたまってきた涙も冷たい。
また、風が吹いた。頭のショールがはずれそうになる。
そのとき、森の方から音が聞こえたような気がした。音の方角に目を向けると小さな光が見えた。
デュセはその光に向かって走り出しだ。ショールが飛ばされないように、首元で強くにぎる。
頬に伝いだしだ涙が、顔に当たる雪が、胸にある指輪が冷たいと感じながら。
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