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 オレは嘘がつけない人間だ。今までに嘘をついたことがないかと問われると、それこそ嘘になるが、仮にオレが嘘をついたところで、その嘘はすぐにバレてしまう。オレの死んだおふくろがいうには、冷蔵庫のプリンを勝手に食べた時についたほんの些細な嘘であっても、オレが嘘をつけば鼻が膨らむだとか、頭を掻く癖があるようだ。それだもので、――特に対象が女である場合は――嘘がうまくいった試しがない。  得てして、園芸コーナーの美人の店員にも嘘をつかなかった。正直に妖精のいわくがある植木鉢のことを話した。胡散臭い迷信なんか信じちゃいないが、植木鉢を購入したまでの流れは事実であるし、迷信が気になって行動に移すまでの三ヶ月は、オレにとっちゃ腑抜けであった三ヶ月だ。オレは男らしいオレを取り戻すために花を育てるのだ。それが第一の目的だ。そして、あくまでもついでの話だが、この植木鉢の嘘をあばくために、美人の女とは仲良くなる必要がありそうじゃないか。考えてもみろ。花なんて、小学校に通っていたころの夏休みに、アサガオを育てて以来じゃないか。せっかく育てあげるのだから、枯らしてしまって台無しにしてはいけない。ここはぜひ、園芸のプロの助言を求めてしかるべきであろう。第二の目的とは、美人の店員と仲良くなること。それが男らしいオレを取り戻すための、順当な手段だといえよう。
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