付喪神専門店

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 懐中時計に目を落として、一つ息を吐く。二人が大切にしていた宝物。そう思うと、手放すのが惜しくなってきてしまう。この少女が言うようにこの場所で眠らせてあげるのがこの懐中時計――付喪神にとってはいいことなのだろう。そうだとしても、手元に置いておきたいと願ってしまう。 「……もちろん、必ずその懐中時計をここで眠らせなければならないとは言いません。先ほども述べたように懐中時計の行く末を決めるのは由奈さんです」 「このまま持ち帰ってもいいということ?」 「大切にしていただけるのであれば」  長い沈黙。悩んだ末に、一つ結論を出した。 「この懐中時計、あなたに差し上げます。このお店にではなくて、付喪神のあなたに」  ずっと一人。それではたとえ付喪神でも、というよりは人に大切にされて生まれた付喪神だからこそ、辛いことだろう。ここにいる付喪神たちはあくまでお店のものであって、きっと少女が言っているように彼女のことを気にかけることなく眠っているのだろうから。 「この中にいる付喪神がどういう方かはわからないけれど、きっとあなたの話し相手になってくれるんじゃないかと思って……受け取ってもらえますか?」  少女は美しい笑みを浮かべて、うなずいた。 「由奈さんがそう決めてくださったのであれば、喜んで」  懐中時計を手渡すと、彼女は大事そうに胸元に抱えた。 「ありがとうございます。大切に使わせていただきます」 「あ、でもそれ、もう動いていなくて……パーツを変えたら動くかもしれないんですけど」  すると、少女は首を横に振って、私に懐中時計を見せてきた。さっきまで止まっていたはずの針がチリチリと小さな音を立てながら時を刻んでいて、懐中時計と少女の顔とを交互に見てしまう。 「これもあなたの……?」 「いえ、ここは現実とは少しだけ離れた世界。付喪神様が動くことを望めば、この針は動き続けます。たとえ柱が一本折れてしまっていても、バランスを保ったまま私を揺らしてくれる椅子のように」  背後の揺り椅子を見ると、たしかに左側の脚が一本折れてしまっていた。 「この椅子も?」 「はい。実は、お店にではなく私にと預けてくださる方は由奈さんだけではないのです。もちろんその中にいらっしゃる付喪神様が静寂を望まれたらいつものようにお店の方で眠っていただいているのですが……またこのお部屋がにぎやかになりました」  そう言う姿は嬉しそうで、安心した。この揺り椅子に付喪神がいるというならば、恐らくからくり人形やもしかしたら机にも宿っているのだろう。 「一人じゃなかったんですね……よかった」 「ええ。ですから、安心してください。お見送りさせていただきますね。外に出ることはできませんが、入り口まで」  ここにあるもの全てに付喪神が宿っている。入ってきたときには考えもしなかったことだが、それを知ってから見るとなんとなく特別なものであるような気がした。付喪神の気配のようなものは一切感じられないけど、そのくらいあいまいなほうがむしろいいのかもしれない。  出口まであと少しといったところで、唐突に一つの考えが浮かんで振り向いた。
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