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「どうしようかね、これ。骨董品店にでも売るか?」
大勢の親戚たちが集まって、祖父の実家の蔵を整理中、多くの骨董品がゴロゴロ出てきた。
もう動かない時計やオルゴール、さらには置物まで。そもそもこれが本当に骨董品としての価値があるのかどうかはわからないが、かなり古いものであるのは確かだ。
「どうせガラクタでしょう。捨てちゃいましょ」
少し小太りな叔母がそう言ったのを聞いて、ほとんど手伝いもせずに見ていただけの由奈が慌てて止めた。
「ちょ、ちょっといいですか?」
「なんだい由奈ちゃん。なにか欲しいものでもある?」
欲しい物。欲しいのだろうか。少なくとも今までこんなものを欲しがった覚えはないが。
「これだけ、いただいてもいいですか?」
親戚たちを押しのけて手に取ったのは、手のひらサイズの懐中時計。凝った模様が掘られてはいるが、特別目立つようなものではない。
それでもなぜか、これだけは持っていたかったのだ。
眼鏡の位置を直しながら尋ねた由奈に、みんなは少しとまどいながらも頷いた。
「ありがとうございます」
頭を下げて、足早に蔵を後にする。太陽の下で明るい場所で見てみると、さらに奥深い"なにか"がある気がして、心が踊った。
当然時を刻んではおらず、二時五十二分で止まってしまっている。電池を入れたらまた動くだろうか。それとも、もう……。
少し周りを散歩するだけのつもりが、時計に魅入っている内に知らない道に迷い込んでしまったようで、慌てて足を止めた。
不安から指で髪をくるくるといじりながらスマートフォンを見たが、圏外で現在地を調べられない。
「圏外って、なんでこんな街中で……」
とりあえず元来た道を辿るべく引き返し、少しでも見た事のある道に出ないか辺りを見回す。とはいえ、年に二回ほどしか来ないので、駅から家までの道くらいしか自信が無い。辺りを見て場所の検討がつく訳もなかった。
あまり遠くには来ていないはずだ。しばらく歩けば、知っている道に出られるはず。そう信じて歩いている内に、建てられてから相当な年月が経っていそうな木造の骨董品店が見えてきた。
「つ、くも……がみ、専門店……?」
付喪神というのはなんだっただろうか。というより、神様を専門に取り扱う店とはどういうことだろう。窓から見える感じではただの骨董品店のようだが。
しかし、由奈を招くようにひとりでに扉が店側へ開いて、ぽかんとしてしまった。
少し怖いが、道を聞けるかもしれない。駅の場所だけ尋ねよう。そう考え、恐る恐る店内へ足を踏み入れた。
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