付喪神専門店

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「すみませーん、誰かいますかー?」  一応すぐに閉められるようにドアノブに手をかけながら、店の中を見渡す。大小さまざまな置物やガラクタにしか見えないもの、私よりも一メートルほど大きい振り子時計もある。店内を照らすのはところどころに点在するオレンジの小さなランプのみ。外観から感じるイメージよりもかなり広いようで、数えきれないほどのものが一つ一つ丁寧に置かれている。 「あの、道に迷ってしまって……道を聞きたいんですけどー」  返事がない。聞こえないのかと思って中に入ろうとすると、奥の壁ががたんと音を立てて左右にずれた。扉のような形ではなかったはずだ。隠し扉のようなもの、だろうか。  壁の中から出てきたのは、淡い朱色の着物を着た十一、二歳ほどの少女。日本人形のような整った顔つきと美しい髪に、思わず言葉を失ってしまった。 「いらっしゃいませ。付喪神専門店へようこそ」  見た目に似合わず落ち着いた口調の、透明感がある声。 「あ、えっと、私お客さんじゃなくて、道を聞きたいんですけど……」  慌てて事情を説明したのだが、少女は首を横に振った。 「いいえ、あなたはこの店の大切なお客様です」 「えっ?」  聞き返すと、少女はくるりと自分が出てきた方へ踵を返した。 「どうぞこちらへ」  恐る恐るついていくと、五角形のお店よりもさらに暗い部屋へと案内された。天井がかなり低く、背の高い男の人ではかがまなければ入れないだろう。  揺り椅子、机とその上に置かれたからくり人形以外は何もない本棚に囲まれた部屋。ぎっしりと詰められた本の背表紙には何も書かれておらず、どのような本なのか見当もつかない。 「そちらの懐中時計を見せてください」  そう言われて、左手に握っていた懐中時計を差し出す。 「これがなにか……?」  すると、少女は私の手からそっとそれを取り上げた。ひんやりとした小さな手。 「ええ、とても大事に扱われていたのですね」  大事そうに手で包み込みながらつぶやく様は、まるで時計と会話しているようだった。
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