付喪神専門店

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「柏木由奈さん」  突然私の名前を呼ばれて、驚いて固まってしまう。 「彼をここまで連れてきてくださって、ありがとうございます」 「えっ? どういう……あなたは……?」  困惑している私に、彼女は優しい笑みを浮かべた。 「ここは付喪神専門店。付喪神様をお迎えし、平穏をお与えするのがこの場所のお役目なのです。私のことは店員のようなもの、と理解していただければそれで結構です」 「付喪神って、その懐中時計に?」  開いた口が塞がらないとはまさにこういうときのことを言うのだろう。少女はうなずいて、私に懐中時計を返した。どれだけ見つめても、この中に神様が宿っているとは思えない。 「驚くのも無理はありません。ですが、由奈さんには決めていただきたいのです。その懐中時計に住まう付喪神様の未来を」  いよいよ話がわからなくなってくる。そんな私をよそに、少女は本棚から深緑色をした表紙の本を手に取った。 「これはこの付喪神様の記憶、懐中時計の記憶です。かなり大切にされていたようで、付喪神様が宿る前の記憶も残っています。ある意味では、由奈さんのおじいさまの記憶の断片とも呼べるかもしれません。由奈さんに差し上げます」 「記憶、ですか?」 「ええ。どのようにしておじいさまの手に渡り、どのように扱われたのか、それがわかる本。というよりは、わかるように言いますと絵本でしょうか。文章ではなく絵によって付喪神様の記憶の一部が描かれています」  そう言って、少女は少し色あせた表紙をめくった。あくまでイメージのようで、はっきりとした絵ではない。薄墨のような淡い筆跡で、懐中時計を手にしている一人の女性が描かれている。幸せそうな笑みを浮かべているその人は、なぜだか祖母であるような気がした。  声が聞こえる。よく知っているようで、少しだけ若い声。
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