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『一生大切にしますね』
『照れくさいことを言ってくれるな、君は』
次のページは男女が寄り添っている姿が描かれていて、女性の手に懐中時計が大事そうに握られていた。
『また持ってきているのか』
『ええ、だってこれは特別ですもの。あなたが私に送ってくれた、最初の品。身に付けない方がおかしな話です』
懐中時計が時を刻むとともに、二人は少しずつ、それでも確かに歳をとっていった。同じように懐中時計もその役目を果たせなくなっていく。
『そろそろパーツの替え時かしら』
『もう四十年くらい経つだろう? 新しいのを買ってあげるよ』
『でも、これは……』
『普段から使っていなくたって、持っていてくれるだけでうれしいものだからね』
『そう……? それじゃあ、甘えようかしら』
懐中時計がその時を止めて役目を終えてもなお、祖母はポーチの中に入れて持ち歩いているようだった。
暗闇の中で、幸せそうな声だけがかすかに届く。しかし、静かな平穏は長くは続かない。
『まさか、君が先に逝くとはなあ……』
祖父の手には、祖母が肌身離さず持ち歩いていた懐中時計が握られている。
『――きっとすぐ会いに行くから、寂しがらずに待っていておくれ』
次のページではもう、蔵の中にひっそりとしまわれていた。
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