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「これはもともと、おばあちゃんのものだった……」
蔵にしまわれてしまったのはこの幸せな時間を思い出して悲しくなるからだろうか。しかし、この懐中時計にとってはそれこそ悲しいことだ。
無言で、懐中時計を握りしめる。少女はそっと本を閉じて私に渡してきた。あまり厚い本ではないはずなのに、ずっしりと重みが伝わってくる。
「神様とはいえど、付喪神様の多くは力も弱くなにか権能を持つわけではありません。大切に扱われたものがその記憶によって意思を持つことで、神のような存在となるのです。当然悪い扱いを受けたものは神などにはなれずに、むしろもののけを宿すのが関の山ではありますが。ほとんどの付喪神様は、存在に気づかれることなくそのものの形が失われると同時に消滅します。ですから、あなたのように付喪神様の気配を感じた者に、このようにして付喪神様をこちらへ連れてきていただいているのです」
あのとき、私が捨てられそうになった懐中時計を持ち出したのは偶然なんかではなく、付喪神の気配を感じたからだという。そのようなことを言われても、にわかに信じられる話ではない。
「私、霊感なんてないと思いますけど……」
「ええ、ここへ付喪神様を連れてきてくださる方のうちの多くはそういった能力はないと言います。ほとんどの場合が持ち主や、あなたのように持ち主であった人の血縁者が、迷い込むようにして付喪神様をここへと連れてきてくださいます」
不思議なことですね、と微笑む姿は、私よりもずっと大人に見えた。
「だから、付喪神専門店……」
とはいえ、と少女はさらに続ける。
「付喪神様の全てがこの場所に導かれるわけではありません。この懐中時計のようにものとしての役目を終えたり、不要とみなされてしまったり。その中で静寂を望んだ付喪神様だけがこの場所へ来る可能性を得ることができます。ものである以上、使われることを望むのが当然のことではあります。しかし、使われなくなってしまったのであれば静かに眠りたいと考える方も多いのです」
ここにあるもの全てに付喪神様が宿っていて、静かに眠っているということ。
「だから、付喪神専門店……この本はどうやって?」
悲しいようで、こういった本のような形で記憶を残せるのであれば良いことでもあるように思えた。
そもそも、時計の記憶をどのようにして本にしたのだろうか。考えてみればありえない話。声が聞こえるのも説明がつかない。
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